「好き」が、未来をひらいていく。柳生千裕さん親子と考える、子どもの学びのかたち。
子どもの成長を見つめながら、その時々に合う「学びのかたち」を一緒に探していく。
NuLAND®では、就学を迎えるお子さまとご家族が、学校や支援について知り、これからのことを考えるきっかけとなる「就学先情報交換会」を開催しています。第4回となる今回は、高校生アーティストとして活動する柳生千裕さんと、お父様の尚央さんをお迎えしました。
小学校時代、通常級と支援級を行き来しながら学んだ千裕さん。絵を描くこととの出会いをきっかけに、「好き」や「得意」を少しずつ広げ、今では自身の表現をさまざまなかたちで届けています。
千裕さん親子のお話から見えてきたのは、最初からひとつの答えを決めるのではなく、子どもの成長や気持ちに寄り添いながら、その時々に合う環境を探していくということ。
今回の情報交換会では、そんな千裕さんの歩みを入口に、子どもの「やってみたい」を大切にすること、そして学びの環境を柔軟に選んでいくことについて、参加者の皆さまと一緒に考えました。
通常級と支援級を行き来しながら見つけた、自分に合う学び
幼少期に自閉症スペクトラムと診断された千裕さん。小学校への進学を前に、ご家族が考えたのは、「どこで学ぶのが千裕に合っているのか」ということでした。
「最初は、通常学級でもいいんじゃないかと思っていたんです」、そう振り返る尚央さん。一方で、ご家族でさまざまな情報を集める中で、支援級も選択肢のひとつとして考えるようになりました。千裕さんは小学校入学後、通常級と支援級を行き来しながら学校生活を送り、療育や行動訓練などにも取り組みました。
「支援級に行くこと自体を、本人はそんなに嫌がっていなかったんですよね。1年生のときから行っていたので、本人にとってはそれが普通だったんだと思います」。大切なのは、「通常級か支援級か」という二択そのものではなく、その時の千裕さんにとってどんな環境が過ごしやすく、学びやすいのか、だとお父様である尚央さんは語ります。「その子にとって何がいいのかは、やっぱりその時々で変わってくると思うんです。子どもの成長とともに、必要な支援も、心地よい環境も変わっていくのではないでしょうか」。
最初に決めた場所に、そのまま合わせ続けるのではなく、子どもの様子を見ながら環境を選び直していく。千裕さんの歩みには、そんな柔軟な選択がありました。
「好き」が「得意」になった。絵との出会い
千裕さんの歩みを語るうえで、欠かせないのが「絵」との出会いです。きっかけは、学校の先生から見せてもらった一枚の絵でした。
「支援級の担任の先生から、『千裕くん、学校でこんな絵を描いているんですよ』って見せてもらって。その絵を見て、すごいなと思ったんです。せっかくこんなに描けるんだったら、もっとやってみたらいいんじゃないかなと思って」。そんな思いから、お父様は千裕さんにカラーペンをプレゼントしました。そこから、千裕さんの表現は少しずつ広がっていきます。色を使って描くようになり、やがて建物などの直線を表現するために定規を使うように。それが現在の「ルーラーアート」へとつながっていきました。
「最初から今みたいな絵を描いていたわけじゃなくて。本人が好きでやっているうちに、だんだん今の形になっていったんです」。現在、千裕さんはヘラルボニーの契約作家として、絵画だけでなく、デジタルアートやアパレルデザイン、ワークショップなどにも活動の幅を広げています。
「学校で描いた絵を先生が教室に飾ってくれたこと。その絵を見たクラスメイトが声をかけてくれたこと。自分が描いたものを、誰かが見てくれる。それって、本人にとってすごく大きかったんじゃないかなと思います」と、尚央さんは語ります。
「好きなこと」が「得意なこと」になっていく。そして、それを誰かに認めてもらう。そうした小さな経験の積み重ねが、千裕さん自身の自信にもつながっていきました。
尚央さんが子育ての中で、大切にしてきたこと、それは「本人がやりたいことを尊重し、大切にしたい」という気持ちです。
就学について考えていると、「通常級と支援級、どちらがいいんだろう」「今の環境を変えたほうがいいんだろうか」「将来のために、今から何をしておけばいいんだろう」と、つい「正しい答え」を探したくなります。けれど、千裕さん親子のお話から伝わってきたのは、最初から答えを決めておくのではなく、その時々の千裕さんの「やってみたい」を見つけ、それを応援していくという姿勢でした。
「親がこうしたほうがいいと思っても、本人がやりたいと思わなかったら、なかなか続かないじゃないですか。だから、本人がやりたいと思ったことは、できるだけやらせてあげたいと思っています」。
子どもの様子をよく見て、「今、何に興味を持っているのか」「何を楽しんでいるのか」に気づくこと。そして、その「やってみたい」を、できる範囲で環境や経験につなげていくこと。千裕さんの歩みは、その積み重ねでもありました。
子どもの「今」を見ながら、環境を選んでいく
第二部では、学校選びや放課後の支援、通常級・支援級での学校生活などについて、教育や福祉の現場、行政の立場などさまざまな分野の専門家を交えた相談会を行いました。
「どこに相談すればいいのかわからない」「支援級と通常級、どう考えればいい?」「放課後等デイサービスは、何を基準に選べばいい?」など、参加者から寄せられた悩みは、それぞれ異なります。
だからこそ、ひとつの答えを当てはめるのではなく、「今、この子にはどんな環境が合うのか」「どんな支援があると安心して過ごせるのか」「少し先の成長を考えたとき、どんな選択肢があるのか」、そんな視点で考えることの大切さが共有されました。
実際に学校や施設を見学し、子どもの様子を見ながら選んでいくこと。必要に応じて、環境を変えたり、複数の支援を組み合わせたりすること。「一度決めたら終わり」ではなく、子どもの成長に合わせて選び直してもいい。そんな具体的な経験談も交わされました。
参加者からは「相談員さんと(個別にゆっくり)お話しができて良かったです。児童発達支援の施設の事や放課後デイサービスについてお話を聞く事ができ早いうちに気になった所は見学に行って子供に合う所を見つけようと思いました。
千裕さんのデモンストレーションは短い時間でしたがうちの子も一緒に塗り絵をやらせていただいて、本人も親も嬉しかったです!」との声が寄せられました。相談会に参加した専門家たちも、保護者の方々の姿勢や思いに触れ、新たな気づきや学びがあったと語ります。
相談支援員は「色々な不安を抱えている、お母様にお会いする事ができました。なかなか専門機関にいきなり相談だと敷居が高いので、このような気軽な会があるのは良いと思いました。子ども達が楽しく生活できるよう一緒に考えていけたらと思います。」と振り返ります。発達特性があるお子さまのレッスンも手がける英語塾講師は「英語について悩んでいらっしゃる方が多かったです。お子さまの状況にあった英語学習はおひとりずつ違うと思うので、一番良く見て知っている保護者の方とお子さまの双方が納得できるスクール選びをされると良いと思います。お伝えした内容が少しでもお役に立てていれば幸いです。」と話していました。
保護者の方々の思いや日々の工夫に触れることは、専門家にとっても、新たな気づきや学びにつながる時間となったようです。お互いの思いを共有し、それぞれの立場から考える。そんなあたたかな交流も、今回の情報交換会の大切なひとときとなりました。
就学は、子どもにとっての一つの大きな節目です。だからこそ、不安になったり、迷ったりするのは自然なこと。「この選択でよかったのかな」と振り返ることも、きっとあるのだと思います。
千裕さんも、通常級と支援級を行き来し、療育などを経験しながら、少しずつ自分の世界を広げてきました。そして今は、学業と創作活動を両立しながら、自分の「好き」をかたちにしています。
子どもの未来は、最初からひとつの道に決まっているわけではありません。今はまだ見えていない「好き」が、いつか見つかるかもしれない。今は合っている環境が、成長とともに変わるかもしれない。だからこそ、子どもの「今」を大切にしながら、その時々に合う選択を重ねていくことが、その子らしい未来へとつながっていくのかもしれません。
今回、千裕さん親子から教えていただいた「本人がやりたいことを大切にしたい」という言葉。NuLAND®もこの想いを胸に、これからも子どもたち一人ひとりの「好き」や「やってみたい」に寄り添いながら、その子らしい学びのかたちを一緒に考えていきたいと思います。
Profile柳生千裕
2008年兵庫県生まれ。幼少期にASDと診断される。9歳のときに描いた作品が国際的なコンテストで入賞したことを機に、独学で創作活動を始める。父親からコピックをプレゼントされたことをきっかけに、それまで白黒だった作品がカラフルな表現へと変化。現在は幾何学模様をモチーフとした鮮やかな作品を制作。デジタルアートやNFT、アパレルデザイン、ワークショップなど、活動の幅を広げている。
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